社会保障制度の1つである社会保険。
実は、大規模な法改正に伴い、2022年10月と2024年10月から、適用される対象が段階的に拡大することをご存じでしょうか。

本記事では、社会保険適用拡大の具体的な内容や、適用拡大に伴うさまざまな影響、また社会保険の適用拡大へ向けて企業が取っておきたい対策などを詳しく紹介します。
人事労務を担当されている方や、管理職の方は、ぜひ最後までご覧ください。

社会保険とは?

社会保険とは、国民が生活するうえで発生する病気やケガ、また失業といったさまざまなトラブルを、国がサポートする保険制度のことです。

従業員数や労働時間が一定の基準を満たしている場合、会社は従業員を社会保険に加入させる必要があります。
また、正社員の場合は、原則として社会保険への加入は義務化されており、会社と雇用契約を結ぶ際に自動的に加入することになっています。

そのため、労働時間や月額給与額にかかわらず、途中で社会保険を脱退することはできません。
ただし、在職中に雇用形態が変わったことで加入要件を満たさない状態になった場合は、社会保険を脱退することになります。

なお、社会保険は「健康保険」「介護保険」「年金保険」の3種類の保険をまとめた総称です。
広義では「労災保険」「雇用保険」の2つも社会保険に含まれる場合がありますが、今回の社会保険適用拡大において対象となる保険は、上記の3種類です。

それぞれの保険において、保障される項目を以下にまとめました。

社会保険で保障される内容

保険の分類

保障される内容

健康保険

病気やケガで医療機関を受診した場合に、医療費の一部が負担される

介護保険

介護サービスや介護予防サービスを利用する場合に、料金の一部が負担される

年金保険

65歳以上になると、年金形式で老後資金を年6回受け取れる

労災保険

勤務中や通勤中にケガをした場合に、医療費の一部の負担や休業補償が支給される

雇用保険

会社を退職した場合や育休中の場合に、それまでの給与額に応じた給付金が支給される

社会保険の適用拡大の内容や適用される要件

「年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律」の大規模な法改正により、2022年10月と2024年10月から、社会保険の適用拡大が段階的に実施されます。

この社会保険適用拡大が実施されることで、これまで会社の従業員数や労働などの理由で保険の加入対象外だった従業員が、社会保険の加入対象に含まれるようになります。

社会保険の適用拡大の具体的な内容は以下のとおりです。

2022年10月以前に社会保険が適用される要件

2022年10月以前の時点では、2016年に実施された法改正によって定められた内容が社会保険の適用条件となっています。
2016年に実施された法改正では、従業員数が501人を超える企業においてのみ、短時間労働者に対しても社会保険が適用される旨が定められました。
所定労働日数が正社員の4分の3以上あるアルバイトやパート、契約社員なども従業員に含まれます。

ただし、従業員としてカウントされるタイミングは「直近12か月間のうち、6か月で基準を上回った段階」です。
そのため、500人以上の従業員がいる会社であっても、退職者が出たことで従業員の人数が500人を下回る月が長期的に続いた場合は、社会保険の適用対象外になることがあります。
また、上記の条件を満たしている企業で働いている場合でも、以下の条件に該当する従業員は、社会保険の適用対象外と見なされます。

2022年10月以前において社会保険の適用対象外と見なされるケース

  • 週の所定労働時間20時間を下回っている
  • 月額給与額が8.8万円(年収106万円)を下回っている
  • 1年以上の雇用期間が見込めない
  • 学生である

このように、企業および従業員が社会保険の適用対象となるためには、さまざまな条件を満たしている必要があります。

2022年10月以降に社会保険が適用される要件

社会保険の適用条件が厳しいことや、少子高齢化社会に伴い労働人口が増加することなどを鑑みた結果、2022年10月以降は条件が緩和されることになりました。
2022年10月以前は、社会保険が適用される条件に「従業員数が501人以上の企業である」という項目がありました。

しかし、2022年10月以降は、従業員数が101人以上の企業まで適用範囲が拡大されます。

また、従来は「1年以上の雇用が見込めること」が、適用対象となる条件でしたが、2022年10月以降は、2か月以上の雇用期間が見込まれる場合であれば社会保険が適用されます。
ただし、1週間あたりの所定労働時間が20時間以下の場合や、月額給与額が8.8万円以下の場合、また従業員が学生の場合は、従来と同じように社会保険の適用対象外です。

2024年10月以降に社会保険が適用される要件

2024年10月以降は、社会保険が適用される要件がさらに緩和され「従業員数が50人以上いる」という要件を満たしている企業であれば、短時間労働者にも社会保険が適用されます。

しかし、あくまでも緩和される要件は従業員数のみなので、週の所定労働時間や、月額給与額などの要件に変更はありません。
従業員数が常時50人以上の企業で働いていたとしても、労働時間や月額給与額が基準に満たない従業員の場合は、社会保険の適用対象外となることもあるので注意しましょう。

企業に対しての影響

社会保険の適用範囲が拡大することによって、企業には主に2つの影響が与えられます。

影響①社会保険料の負担が増える

従業員の加入する社会保険の保険料は、原則として従業員と会社が折半で支払うことになっています。
そのため、従業員が社会保険に加入すればするほど、それだけ企業の負担額も増えます。

なお、社会保険料の会社負担の割合は、従業員の給与の約15%とされているため、月収が20万円の従業員に対して、会社が支払う社会保険料の目安は、一人あたり約3万円です。

影響②従業員の労働時間や仕事における生産性が変動する

企業と従業員の両方が、社会保険の適用となる条件を満たしている場合、社会保険の加入では任意ではなく義務となります。

しかし、なかには「家族の扶養の範囲内で働きたい」「月々の負担を増やしたくない」といった理由から、社会保険へ加入しないことを望む従業員もいるでしょう。
このような場合、企業は従業員に対して「週の労働時間を20時間以下に抑える」「月額給与額が8.8万円を超えないように調整する」などの対策をとらなければなりません。

従業員の労働時間が短くなると、仕事における生産性自体が低くなることや、一部の従業員の負担が大きくなるといった事態が生じることが考えられます。

従業員に対しての影響

社会保険の適用範囲が拡大することは、企業だけではなく、従業員にも影響をおよぼします。
社会保険の適用範囲の拡大が、従業員へ与える主な影響には、以下のようなものがあります。

影響①給与の手取り額が減少する

社会保険料は、従業員と会社が折半で支払うものです。
原則として、社会保険料は毎月の給与から天引きされるため、社会保険に加入すると、毎月の給与の手取り額が必然的に減少します。

影響②場合によっては労働時間を調整する必要性が出てくる

給与の手取り額を減少させないために、従業員は「社会保険へ加入しない」という選択をすることもできます。
ただし、労働時間や雇用期間などの要件を満たしている場合は、従業員本人の意思とは関係なく、社会保険には加入しなければなりません。

そのため、社会保険の加入を避けるために「月額給与額を8.8万円以下にする」「1週間あたりの労働時間を20時間以下にする」といった調整や、逆に「社会保険への加入を前提にフルタイムで働く」といった調整パターンが存在します。

社会保険の適用拡大に向けて企業がやっておくこと

社会保険の適用範囲が拡大することは、企業と従業員の両方に大きな影響を与えるため、トラブルに発展することもあります。
社会保険の適用範囲が拡大される時期は、2022年10月と2024年10月なので、それよりも前に適切な対策を講じておくことにより、トラブルをある程度防げます。

社会保険の適用拡大に向けて、事前に以下のことを済ませておきましょう。

ポイント①社会保険の加入対象となる従業員を把握する

社会保険の適用拡大に向けて、企業が最初にやるべきことは、社会保険の加入対象となる従業員を把握することです。

すべての従業員の労働時間や雇用期間、給与額などを確認したうえで、誰が新たに社会保険の加入対象となるのかを把握します。
この作業を行う際は、現行の要件ではなく、必ず適用拡大後の要件と照らし合わせましょう。

ポイント②新たに社会保険の加入対象となる従業員へ説明を行う

従業員とのトラブルを防ぐために、新たに社会保険の加入対象となる従業員へ説明を行うことも大切です。
社会保険の具体的な内容や適用が開始される時期だけではなく、給与から天引きされる金額の目安や注意点などもしっかりと伝えましょう。

また、「家族の扶養の範囲内で働きたい」といった理由から、あえて社会保険へ加入しないことを希望する従業員も出てくる可能性があります。
従業員から引き続き社会保険に加入しない旨を伝えられた場合は、個別での面談の機会を設けて、今後の労働時間や出勤日数をどうするかを話し合いましょう。

ポイント③社会保険料を算出する

社会保険の加入対象となる人数が把握できたら、社会保険料の概算を算出しましょう。

従業員の社会保険料は、原則として従業員と会社が折半で支払うため、社会保険の対象となる従業員の人数が多いほど、会社の負担額も増えます。
従業員の給料額を確認する際には、どのくらいの社会保険料を支払う必要があるのかもあわせて算出しておくことをおすすめします。

ポイント④被保険者資格取得届を提出する

従業員を新規で雇用した場合において、その従業員を社会保険に加入させるために提出する届け出のことを「被保険者資格取得届」といいます。

従業員数が101~500人の企業は2022年10月5日、そして、従業員数が51~100人以下の企業は2024年10月5日までに、被保険者資格取得届を年金事務所に提出しましょう。もしくは、日本年金機構の事務センターでも受け付けてもらうことが可能です。

オンラインや、郵送などの方法で提出することが可能なので、会社にとって対応しやすい方法で提出することをおすすめします。

適用拡大が始まる前に任意で適用拡大を進めるメリット

従業員数が101~500人の企業は2022年10月以降、そして従業員数が51~100人の企業は2024年10月以降にそれぞれ社会保険の適用拡大の対象となります。

しかし、これより前の段階でも一定の条件を満たして労使の合意を得ていれば、従業員数が500人以下の企業で働いている短時間労働の従業員でも、社会保険への加入が可能です。
適用の拡大が始まるよりも前の段階で、社会保険の加入範囲をすでに拡大している場合は、特定の助成金や補助金の申請が通りやすくなります。

たとえば、社会保険の加入範囲をすでに拡大している場合は、生産性向上に取り組む中小企業を支援する「ものづくり補助金」「持続化補助金」「IT導入補助金」の申請でも有利です。
社会保険の適用がスタートする事前の段階で加入要件を満たしておくと、さまざまな支援が優先的に受けやすくなるので、事前に確認しておくとよいでしょう。

社会保険の適用拡大により中小企業の短時間労働者も対象になる

いかがでしたでしょうか。

大規模な法改正により、2022年10月と2024年10月から、社会保険の適用拡大が段階的に実施されます。
従業員の人数や雇用期間といった要件が緩和されることで、中小企業でも短時間労働者に対する社会保険が適用されるようになります。

社会保険の加入者が増えることで、企業と従業員の双方に影響が出ることが考えられるため、社会保険の対象となる従業員の人数や社会保険の金額などは事前に確認しましょう。

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